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大阪地方裁判所 昭和39年(わ)4093号 判決

被告人 奥野清 外三名

主文

被告人奥野清を懲役一年六月に、

同森道彦を懲役一年に、

同山下隆および合田星五郎をそれぞれ懲役六月に各処する。ただし、この裁判確定の日から、被告人森道彦に対し三年間、同山下隆および合田星五郎に対しそれぞれ二年間、右各刑の執行を猶予する。

被告人奥野清から金八二万二四一〇円を、同森道彦から金四万円を各追徴する。

訴訟費用中、証人吉岡等・山本厳に支給した分は被告人奥野清の負担とし、証人出水良三に支給した分は被告人山下隆・合田星五郎の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人奥野は、昭和三五年四月以降、大阪府南河内郡美原町北余部六六一番地所在の美原町農業委員会の主事として、農地法所定の農地の権利移動および転用申請や土地改良法所定の農地の交換分合申請の受理・審査および大阪府知事に対する進達ならびに登記申請手続等の職務に従事していたものであり、被告人森は、昭和三六年七月以降、同農業委員会主事補として、右奥野を補佐し、右各申請の受理・審査・進達等の事務に従事していたもの、被告人山下は宗数法人PL教団の財務部顧問、同合田は同教団の法人課長であるが、

第一被告人奥野・同森は共謀のうえ、

(一)  昭和三八年三月ごろ、奥田源三郎から、同人が伯井幸一ほか一名から買受けた美原町丹上二八五番の田ほか二筆の田合計二反九畝二歩について、不動産取得税・登録税等を免れるため、本来とるべき農地法三条の所有権移転許可申諸手続をとることなく、土地改良法九七条の交換分合によつて所有権を取得したように手続をしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、その報酬として贈与されるものであることを知りながら、同年四月二七日ごろ、美原町丹上二四〇番地奥田源三郎方の事務所において、同人から現金五万円の供与を受けて、各自にこれを折半して自己らの職務に関して賄賂を収受し、よつて、同年七月二三日、前記農地については交換分合による所有権移転登記手続ができないのにかかわらず、美原町農業委員会会長古川鹿太郎名義をもつて、大阪法務局美原出張所において係官に対し、前記奥田のために土地改良事業交換分合登記申請をして、同係官に同出張所備付けの不動産登記簿原本に右交換分合によつてその所有権が移転した旨記載させて、自己らの職務上不正の行為をし、

(二)  昭和三八年三月中旬ごろ、吉村隆から、同人が父から相続した同町北余部二六九番の田ほか五筆の田畑および畦畔合計六反一畝三歩について、相続税・登録税等を免れるため、本来とるべき農地法三条の所有権移転許可申請手続をとることなく、土地改良法による農地交換分合によつて所有権を取得したように手続をしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、その報酬として贈与されるものであることを知りながら、同年七月一一日ごろ、同町北余部二四五番地の同人方において、同人から現金三万円の供与を受けて、各自にこれを折半して自己らの職務に関して賄賂を収受し、よつて、同月二三日ごろ、前記農業委員会において、同人の前記農地については交換分合による所有権移転登記手続ができないのにかかわらず、ほしいままに、前記農業委員会会長古川鹿太郎名義をもつて大阪法務局美原出張所宛の右農地に関する土地改良事業交換分合登記申請書を作成し、その名下に同会長印を押なつして、公務員の押印ある公文書一通(証六号)を偽造し、同日、同町阿弥五五番地の二所在の右法務局出張所において、係官に対し、右偽造に係る登記申請書を真正に成立したもののように装つて提出して行使し、同係官に同所備付の登記簿原本に交換分合によつて右農地の所有権が移転した旨記載させたうえ、同所に備付けさせて、自己らの職務上不正の行為をし、

第二被告人奥野は、

(一)  昭和三七年三月上旬ごろ、松浦ヨシヱこと松浦よし江から、同人が片岡正男から買受けた同町黒山字水口四番の一の田一筆および畦畔合計一反一畝一五歩について、不動産取得税・登録税等を免れるため、本来とるべき農地法五条の転用許可申請手続をとることなく、土地改良法による農地交換分合によつて所有権を取得したように手続をしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、その報酬として貸与されるものであることを知りながら、同年一〇月未ごろ、大阪市此花区春日出町四七二番地山本財千方において、同人を通じて、右松浦から現金一五万円の貸与を受けて、自己の職務に関して賄賂を収受し、よつて、同年一二月七日ごろ、前記農業委員会において、同人の前記農地については交換分合による所有権移転登記手続ができないのにかかわらず、ほしいままに、同農業委員会会長古川鹿太郎名義をもつて前記法務局出張所宛の右農地に関する土地改良事業交換分合登記申請書を作成し、その名下に同会長印を押なつして、公務員の押即ある公文書一通(証七号の一)を偽造し、同日、同法務局出張所において、係官に対し、右偽造に係る登記申請書を真正に成立したもののように装つて提出して行使し、同係官に同所備付の登記簿原本に交換分合によつて右農地の所有権が移転した旨記載させたうえ、同所に備付けさせて、自己の職務上不正の行為をし、

(二)  昭和三八年四月ごろ、出水貞市から、同人が妻から長男秀則と共同相続した美原町平尾九六一番の田ほか一〇筆の田畑および畦畔合計七反三畝二一歩について、相続税・登録税等を免れるため、本来とるべき農地法三条の所有権移転許可申請手続をとることなく、土地改良法による農地交換分合によつて所有権を取得したように手続をしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、その報酬として贈与されるものであることを知りながら、同年六月中旬ごろ、前記農業委員会において、同人から現金三万円の供与を受けて、自己の職務に関して賄賂を収受し、よつて、同年七月二四日ごろ、同農業委員会において、同人の前記農地については交換分合による所有権移転登記手続ができないのにかかわらず、ほしいままに、同農業委員会会長古川鹿太郎名義をもつて前記法務局出張所宛の右農地に関する土地改良事業交換分合登記申請書を作成し、その名下に同会長印を押なつして、公務員の押印ある公文書一通(証六号)を偽造し、同日、同法務局出張所において、係官に対し、右偽造に係る登記申請書を真正に成立したもののように装つて提出して行使し、同係官に同所備付の登記簿原本に交換分合によつて右農地の所有権が移転した旨記載させたうえ、同所に備付けさせて、自己の職務上不正の行為をし、

(三)  昭和三七年三月ごろ、高岡寛から、同人が父から贈与を受けた祖父名義の同町菅生二八〇番の田ほか三筆の田畑および畦畔合計六反一八歩について、相続税・贈与税・登録税等を免れるため、本来とるべき農地法三条の所有権移転許可申請手続をとることなく、土地改良法による農地交換分合によつて所有権を取得したように手続をしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、同年八月二四日ごろ、前記農業委員会において、同人の前記農地については交換分合による所有権移転登記手続ができないのにかかわらず、ほしいままに、同農業委員会会長古川鹿太郎名義をもつて前記法務局出張所宛の右農地に関する土地改良事業交換分合登記申請書を作成し、その名下に同会長印を押なつして、公務員の押印ある公文書一通(証七号の一)を偽造し、同日同法務局出張所において、係官に対し、右偽造に係る登記申請書を真正に成立したもののように装つて提出して行使し、同係官に同所備付の登記簿原本に交換分合によつて右農地の所有権が移転した旨記載させたうえ、同所に備付けさせて、自己の職務上不正の行為をし、右行為をしたことに対する報酬として贈与されるものであることを知りながら、同年九月ごろ同町平尾二、七三〇番地の一の自宅において、右高岡から現金五、〇〇〇円の供与を受けて、賄賂を収受し、

(四)  昭和三七年五月ごろ、金京業から、同人が中尾正一ほか六名から買受けた同町菅生八一九番の四の畑ほか六筆の畑合計七反三畝二九歩について、土砂採取の目的で買受けたものであるため、農地法三条の所有権移転許可申請ができないのにかかわらず右許可が得られるようにその手続上便宜有利な取計らいをしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、その報酬として贈与されるものであることを知りながら、右金から、芝池庄太郎を通じ、

(1)  同月下旬ごろ、同町北余部六六一番地の一黒山幼稚園付近の路上において、現金三万円の供与を受け、

(2)  同年六月中旬ごろ、同町阿弥八九番地先の南海バス黒山停留所付近において、現金五万円の供与を受けて、

それぞれ自己の職務に関して賄賂を収受し、

(五)  昭和三七年暮ごろ、出水市松から、PL教団が上田清吉から買受けた同町平尾一、二九八番の畑ほか一筆の田畑および畦畔合計六畝について、耕作者(ないし農業生産法人)でない同教団としては農地法三条の所有権移転の許可が受けられないので、田畑を山林に地目変更して所有権移転登記手続をしたいため、右田畑が山林である旨の土地現況証明をしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、その報酬として贈与されるものであることを知りながら、翌三八年一月一二日ごろ、前記農業委員会において、PL教団法人課課員平川倭喜から現金三万円の供与を受けて、自己の職務に関して賄賂を収受し、

(六)  前記山下隆・合田星五郎・平川倭喜から、

(1)  昭和三八年一月末ごろ、前記教団が奥野鹿太郎ほか一二名から買受けた同町平尾二、一三八番の畑ほか六九筆の田畑合計三町二反二畝一二歩について耕作者(ないし農業生産法人)でない同教団としては農地法三条の所有権移転の許可が受けられないので、土地改良法による農地交換分合によつて所有権を取得したように手続をしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、その報酬として贈与されるものであることを知りながら、同年二月五日ごろ、前記農業委員会において、同教団御木徳日止振出、大和銀行富田林支店払いの金額二九万一六〇円の小切手一通の供与を受け、

(2)  同年五月末ごろ、同教団が池田作太郎ほか一七名から買受けた同町菅生一、七八六番の一の畑ほか六二筆の田畑等合計三町一反六畝一二歩について、前同様、同教団としては農地法三条の許可が受けられないので、土地改良法による農地交換分合によつて所有権を取得したように手続をしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、その報酬として贈与されるものであることを知りながら、同年六月五日ごろ、前記農業委員会において、同教団御木徳日止振出、河内銀行富田林支店払いの金額二八万八、七五〇円の小切手一通の供与を受けて、

それぞれ自己の職務に関して賄賂を収受し、

(七)  昭和三八年六月中旬ごろ、高岡当太郎から、同人が養父名義の同町菅生一〇八番の田ほか一〇筆の田畑合計六反五畝を妻・一枝、長男・正巳、次男・正明に贈与するについて、相続税・贈与税・登録税等を免れるため、本来とるべき農地法三条の所有権移転許可申請手続をとることなく、土地改良法による農地交換分合によつて所有権を取得したように手続をしてもらいたい、と請託されて、これをいれ、その報酬として贈与されるものであることを知りながら、同月二四日ごろ、同町北余部六六一番地美原町役場の応接室において、右高岡から現金五万八、五〇〇円の供与を受けて、自己の職務に関して賄賂を収受し、

(八)  昭和三八年六月五日、前記農業委員会事務局において、田中土建株式会社専務取締役田中明也から、同人が松浦ヨシヱこと松浦よし江から登記簿上片岡正男所有名義になつているのを買受けた同町黒山四番の一の田一反二七歩について、工場用地に転用しようとして申請のあつた農地法五条による大阪府知事宛の許可申請書を受理するや、右転用に関し、同農業委員会として知事に進達すべき意見は、同委員会総会の議決を経たものでなければならないのにかかわらず、右議決を経ることなく、同年八月一日ごろ、同農業委員会事務局において、行使の目的をもつて、ほしいままに、主事補森道彦に命じ、同事務局に備えつけてあつた、書類の発行名義者として同農業委員会の記名がある農地法第五条の規定による許可申請に係る意見書用紙二枚を使用し、右委員会の記名下に同委員会の公印を押なつするとともに同年六月五日の同委員会の総会で許可の議決があつた旨および同委員会が各所定事項を検討した結果総合意見としても許可である旨を各記入させて、公務所たる同農業委員会の署名・押印があり同委員会発行名義の意見書二通(証一・三号)を偽造し、その後間もなく八月初めに、右偽造の意見書一通(証三号)を真正に成立したもののように装つて、前記田中から受理した大阪府知事宛の許可申請書に添付したうえ、大阪市東区大手前之町二番地大阪府庁農林部農地課調整第二係員に送付して行使し、

(九)  別紙詐欺犯罪一覧表記載の日時・場所において、同表記載のとおり、上田定次らに対し、同人らが農地法八〇条により国から売払を受けた各山林の所有権移転登記について、その登録税が登録税法一九条九号により免除されているにかかわらず、あたかもこれを要するもののように装つて、「登記の印紙代を小切手で納めてもらいたい」といつわり、同人らをその旨誤信させて、いずれも前記農業委員会事務局において、同人らから、同表記載のとおり、前後八回にわたつて、それぞれ小切手の交付を受けてこれを騙取し、

第三被告人山下・同合田は前記平川と共謀のうえ、

(一)  右第二の(六)の(1) 記載の日時・場所において、前記奥野に対し、同記載の趣旨のもとに金額二九万一六〇円の小切手一通を贈与し、

(二)  右第二の(六)の(2) 記載の日時・場所において、右奥野に対し、同記載の趣旨のもとに金額二八万八、七五〇円の小切手一通を贈与して、

それぞれ右奥野の職務に関して賄賂を供与したものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人らの判示所為中、

第一の(一)(関係被告人奥野・森)の点は刑法一九七条の三・一項(一九七条一項後段)・六〇条に、

第一の(二)(関係被告人右に同じ)、第二の(一)ないし(三)・(八)(関係被告人奥野)の有印公文書偽造の点は各同法一五五条一項に、右文書を行使した点は各同法一五八条一項・一五五条一項に、不動産登記簿原本に不実の記載をさせた点は各同法一五七条一項に、右原本を大阪法務局美原出張所に備付けさせた点は各同法一五八条一項・一五七条一項に(なお、第二の(八)は右登記簿原本不実記載以下の点には関係なし。)、第一の(二)、第二の(一)・(二)の収賄の点は各同法一九七条の三・一項(一九七条一項後段)に、共謀の点は同法六〇条に、第二の(三)の収賄の点は同法一九七条の三・二項に、

第二の(四)ないし(七)(関係被告人奥野)の点は各同法一九七条一項後段に、

第二の(九)の(1) ないし(8) (別紙詐欺犯罪一覧表番号(1) ないし(8) )(関係被告人右に同じ)の点は各同法二四六条一項(なお同一番号中被害者数名ある分は包括的に一罪)に、

第三(関係被告人山下・合田)の点は各同法一九八条一項(一九七条一項後段)・六〇条、罰金等臨時措置法三条一項に該当する。

ところで、第一の(二)、第二の(一)ないし(三)においてそのそれぞれにおける収賄の行為と有印公文書偽造・同行使・公正原本不実記載・同行使の行為とはそれぞれ一個の行為で数個の罪名にふれ、また右各有印公文書偽造ないし不実記載公正原本行使の行為は順次手段結果の関係にあるから、各刑法五四条一項前段・後段・一〇条により、各最も重い加重収賄罪の刑により処断すべく、また第二の(八)の前記有印公文書偽造・同行使の行為も順次手段結果の関係にあるから、同法五四条一項後段・一〇条により、犯情の重い偽造有印公文書行使罪の刑により処断すべく、第三の各罪については所定刑中各懲役刑を選択して処断することとする。

そして、被告人らの本件各罪は各刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文・一〇条により、被告人奥野については、同法一四条の制限内で、刑および犯情の最も重い第一の(一)の加重収賄罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で懲役一年六月に、被告人森については、右同法条の制限内で、犯情の重い第一の(一)の加重収賄罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で懲役一年に、被告人山下・合田については犯情の重い各第三の(一)の贈賄罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で各懲役六月に処し、なお、被告人奥野を除く被告人らについては各同法二五条一項一号を適用して、この裁判確定の日から、被告人森に対し三年間、同山下・合田に対しそれぞれ二年間、右各刑の執行を猶予する。

次に、被告人奥野の第一の(一)・(二)、第二の(二)ないし(七)において収受した賄賂合計八二万二四一〇円、また被告人森の第一の(一)・(二)において収受した賄賂合計四万円はいずれも同被告人らが費消し或は預金してその同一性を失わせたことによりこれを没収することができないので、同法一九七条の五後段により、右各被告人からそれぞれ右各価額を追徴する。

訴訟費用については、被告人奥野につき刑訴法一八一条一項本文、同山下・合田につき各同法一八一条一項本文・一八二条を適用して、右被告人らに主文末項掲記のとおり負担させることとする。

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判官 本間末吉 和田功 岨野悌介)

別紙一覧表〈省略〉

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